望遠鏡の基本性能
口径
「この天体望遠鏡は何倍ですか?」と聞く人がいます。
天体望遠鏡の性能は倍率で決まると思っているからでしょう。
ところが、この質問は正しい質問とは言えません。
望遠鏡にとっては、倍率よりも、対物レンズ(または対物鏡)の直径の方が重要だからです。
倍率は接眼レンズ(アイピース)を交換することによって変えられます。
対物レンズ(または対物鏡)の直径を口径といいます。
一般に口径が大きいほうが、性能が優れます。
口径が大きいということは、レンズが大きいということです。
レンズが大きいと、こんなメリットがあります。
- より暗い星まで観測できる。(極限等級)
- より細かい部分まで観測できる。(分解能)
- より拡大できる。(倍率)
極限等級
レンズが大きければ、それだけより多くの光を集めることができます。
つまり、より暗い星まで見ることができるのです。
町明かりのない、きれいな星空では、肉眼で6等星まで見えます。
空には、6等星よりも暗い星がたくさんあります。
ただ、肉眼で見えないだけなのです。
たとえば、口径6センチの望遠鏡でみれば、11等星まで見ることができます。
望遠鏡で見ることのできる最も暗い星を、極限等級といいます。
口径が大きいほど、極限等級は暗くなります。
分解能
レンズが大きければ、それだけより細か部分まで見ることができます。
つまり、より詳しく観測できるのです。
どこまで細かく見えるかを「分解能」といいます。
分解能はちょっと理解しにくい言葉です。
月面のクレーターを例にして説明しましょう。
月面は、たくさんのクレーターで覆われています。
大きいクレーターもあれば、小さいクレーターもあります。
口径6センチの天体望遠鏡で見ると、直径10キロのクレーターまで観測できますが、それより小さいクレーターは見えません。
もっと大きい、口径10センチの天体望遠鏡で見れば、直径8キロのクレーターまで観測できます。
肉眼では一つの星に見えても、天体望遠鏡で見ると二つに分かれて見える星があります。このような星を二重星といいます。
二つの星が接近しあっているので、肉眼では一つの星に見えてしまいます。
しかし、天体望遠鏡は肉眼以上に分解能が高いので、二つの星に分解することができるのです。
分解能は角度で表します。
1度よりも小さい角度を次のように表します。
- 1度の60分の1を「1分」といい「1'」と書く
- 1分の60分の1を「1秒」といい「1"」と書く
「秒」や「分」が出てきますが、時間の単位ではありません。間違えないようにしましょう。
分解能が高いということは、より小さい角度まで分離してみることができます。
倍率
拡大の度合いを倍率といいます。
倍率は接眼レンズ(アイピース)を交換することによって変えることができます。
対物レンズの焦点距離を、接眼レンズの焦点距離で割った値が、倍率です。
焦点距離が1000ミリの対物レンズに、10ミリの接眼レンズを組み合わせると100倍になります。
焦点距離の短い接眼レンズを用いれば、いくらでも高い倍率がだせそうですが、それはできません。
分解能を超えて拡大すると像がぼやけます。
分解能よりも細かい部分は拡大できないからです。
口径の2倍程度が出せる倍率の限界です。
口径60ミリの望遠鏡であれば、120倍程度が限界です。
焦点距離f
レンズ中心から焦点までの長さを焦点距離といいます。
一般に焦点距離は「f」で表します。
天体望遠鏡の鏡筒を見て、「f=800」と書かれていたら、その天体望遠鏡の焦点距離は800mm(80cm)ということです。
対物レンズの焦点距離を、接眼レンズの焦点距離で割った値が、天体望遠鏡の倍率です。
焦点距離:800mmの天体望遠鏡に、焦点距離:20mmの接眼レンズを使用すると、40倍(800mm÷20mm=40)になります。
より高い倍率を出すためには、より焦点距離の長い対物レンズが必要です。
しかし、対物レンズの焦点距離が長くなると、像が暗くなります。
また、低倍率が得にくくなるので、目標の天体を視野内に導入しにくくなります。
口径比F(F値)
焦点距離が長いと像が暗くなります。
像の明るさの度合いを示す値が口径比です。口径比はFで表します。
焦点距離fを口径Dで割った値が、口径比Fです。F値ともいいます。
口径:100mm(10cm)、焦点距離:800mmの対物レンズの場合、口径比は、F=8(800mm÷100mm=8)になります。
口径が同じでも、F値が異なれば、望遠鏡の特性も変わってきます。
F値 | 大きい | 小さい |
焦点距離 | 長い | 短い |
高倍率 | 得やすい | 得にくい |
低倍率 | 得にくい | 得やすい |
像の明るさ | 暗い | 明るい |
周辺部の収差 | 目立たない | 目立つ |
視野の広さ | 狭い | 広い |
繰り返しになりますが、分解能を超えた倍率では像がぼやけます。
分解能よりも細かい部分は拡大できないからです。
口径の2倍程度が出せる倍率の限界です。
口径60ミリの望遠鏡であれば、120倍程度が限界です。
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参考文献・サイト
2010/04/25