メッセンジャーの水星への道のりを語る。
メッセンジャー、79億キロの旅
メッセンジャーは、史上2番目の水星探査機である。
1番目のマリナー10号から実に30年ぶりの水星探査を果たし、2015年4月にミッションが完了した。
ここでは、メッセンジャーの打ち上げから水星軌道投入までを解説する。
2004年8月に打ち上げられたメッセンジャーは、2011年に水星の周回軌道に投入される。
つまり、水星の周囲を回る人工衛星になるのだ。
6年半をかけての道のりである。
6年半は長い時間だ。
マリナー10号は1973年11月に打ち上げられ、金星を経由し1974年3月に水星に到達した。
6か月にも満たない航行時間である。
なぜ、メッセンジャーはマリナー10号よりも多くの時間をかけて水星に向かうのか?
その理由は周回軌道投入にある。
マリナー10号は太陽の周りを公転しながら、時々水星に接近し観測を行った。
公転の全工程を通して、水星に接近するタイミングは限られている。
このため、マリナー10号は、水星の全表面の45%しか撮影できなかったのだ。
これに対し、メッセンジャーは水星の全表面をマッピングするために、水星の周回軌道に投入される。
(水星の人工衛星になる)
これが非常に難しい技術なのだ。
映画やドラマで、人間が自動車の屋根から他の自動車の屋根へ飛び移るシーンがある。
この飛び移りを成功させるためには、2台の車両はほぼ同じ速度で並走する必要がある。
水星の周回軌道投入は、これと同じ要領だ。
周回軌道投入には、メッセンジャーは水星の引力に捕まえてもらわなくてはならない。
水星の公転速度とほぼ同じスピードで水星に接近し、周回軌道に飛び移るのだ。
そのためには、メッセンジャーのスピード制御がキーになる。
ジェット噴射を多用して増速・減速を行えば話は早いが、そうはいかない。
打ち上げ時の重量制限などのため、メッセンジャーに積載できる燃料には限りがある。
ジェット噴射による増速・減速は最小限に留めたいのだ。
地球はおよそ秒速30kmのスピードで公転する。
この「秒速30km」が地球を離れたメッセンジャーの初速度になる。
水星の公転は秒速48kmだ。
つまり、メッセンジャーは秒速30kmから秒速48kmまで増速しないと、水星と並走できない。
この増速のためにジェット噴射は使えない。
限れた燃料でそんな贅沢はできないのだ。
そこで利用する増速方法が、スイングバイ航法である。
天体のすぐ近くを通過することによって、軌道を変え引力をバネにして増速するのである。
これなら、燃料は消費しない。
地球を出発したメッセンジャーは太陽を公転する軌道に移る。
メッセンジャーは公転しながら、まず地球に1回、次に金星に2回、さらに水星に3回接近する。
接近の都度、メッセンジャーはスイングバイで増速し、軌道を修正していくのだ。
メッセンジャーは、スイングバイ時の軌道修正によって公転の半径も短くなる。
つまり、水星の軌道へ少しずつ接近していくのだ。
このように、スイングバイを利用することによって、余分な燃料を消費すること無く増速し、水星に接近できるのである。
だが、燃料を節約する分、時間がかかる。
地球と水星は最短距離で約1億キロである。
しかし、メッセンジャーは太陽を公転しながら合計6回のスイングバイを実施するため、航行距離は79億キロにも及ぶのだ。
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参考文献・サイト
NASA MESSENGER
APOD:MESSENGER Passes Mercury
2008/01/31
2010/01/11
2015/05/21