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どうやって天体までの距離を測るのか?

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天体は遥かに遠いため距離を巻尺で測ることはできません。地球の動きや天体の性質を利用して距離を測定します。ここでは星までの距離を測る方法として、年周視差、標準光源、赤方偏移について解説します。

年周視差

見る位置によって見える角度が異なることを視差といいます。



人さし指を顔の前に立てて、片目を閉じてみましょう。 閉じる目を左右交互に変えると、人さし指の位置が変化して見えましたね。これは見る位置によって、人さし指の見える角度が異なるために起こる現象で視差といいます。



走っている電車から景色を見ていると、遠方の風景はなかなか動きませんが、近くの建物が遠方の風景を背景として手前を動いていくように見えます。これも視差による現象です。



比較的近い距離の恒星は視差を利用して距離を測定します。地球は1年かけて太陽を公転します。公転の半径は1億5000万キロメートルなので、地球の位置は半年を隔てて3億キロメートル離れることになります。



これだけの距離を隔てると恒星に対して視差が生じ、遠くの恒星を背景として、近くの恒星が手前を動くように見えます。これが年周視差です。太陽系に近い恒星ほど、年周視差は大きくなります。



半年隔てて恒星Aの位置を観測すると、星Aの見える角度が変化します。これが視差です。 (図の角度bと角度c)

年周視差
年周視差


この様子を地上から観測すると、1年を周期として星の見える位置が刻々と変化しているように見えます。(このイラストは大げさに書いてあります。実際には肉眼で識別できません。)

例えば、最も近い恒星系(ケンタウルス座α星)でさえ、年周視差は0.76秒にすぎません。

この場合の「秒」は角度の単位で、3600分の1度を示します。



ある天体の年周視差が分かると、三角測量の原理でその天体までの距離が算出できるのです。遠方の天体ほど年周視差は小さくなるため、極端に遠い星は年周視差が測定できません。年周視差による距離の測定は比較的近い天体が対象です。



1989年に打ち上げられたヒッパルコスは年周視差を測定する人工衛星です。4年間近いミッションで約12万個の恒星の視差を1,000分の1秒角の精度で調査しました。



年周視差は地球が公転していることの証拠でもあります。ティコ・ブラーエは16世紀の天文学者で、当時最高の精度で観測記録を残しました。ティコの観測記録がベースとなってケプラーの法則が生まれたことからも、その精度の高さがうかがえます。ティコは自分自身の観測精度に絶対の自信を持っていました。そのような観測精度をもってしても、年周視差が検出できなかったことから、ティコは地動説を完全に信じなかったというエピソードが残されています。

標準光源

星の本来の明るさを絶対等級といい、地球から見た星の見かけの明るさを実視等級といいます。



絶対等級が暗くても、地球に近い星であれば実視等級は明るくなります。反対に実視等級が暗いから絶対等級も暗いとは限りません。絶対等級は明るいのに、非常に遠方にあるかもしれないからです。 例えば、北極星(ポラリス)は実視等級1.97等ですが、絶対等級はマイナス3.64等の明るい恒星です。地球からの距離が遠いため約2等級に見えるのです。



絶対等級、実視等級、距離は互いに関連しているので、3つのうち2つが分かれば、残りの1つは計算で求められます。例えば、実視等級は星を見ただけで測定することができ、距離は年周視差によって算出できるので、この2つから絶対等級を計算で求めることができます。



では、年周視差が検出できないほど遠い天体の距離はどうやって測定するのでしょうか?この場合、星を見ただけで知ることができるのは実視等級だけで、絶対等級と距離は分かりません。



もし、「宇宙のどこにあっても絶対等級が簡単に判定できる天体」があれば非常に便利です。その星の実視等級と判定した絶対等級をもとに、その星までの距離が簡単に算出できるからです。このような都合のよい天体を標準光源といいます。標準光源にはいくつかの種類がありますが、ここではセファイド型変光星とIa型超新星を紹介しましょう。



セファイド型変光星

表面が周期的に膨張・収縮を繰り返すことで、明るくなったり、暗くなったりする星を脈動変光星といい、ミラ型やおうし座RV型等さまざまな種類が知られています。 脈動変光星の一種であるセファイド変光星には極めて興味深い特色があります。 明るさのピークから次のピークまでの期間を変光周期といいますが、セファイド変光星は絶対等級が明るいほど変光周期が長いという特徴を持ちます。しかも変光周期と絶対等級が一対一で対応しているのです。



このため連続して観測していれば、変光周期を知ることができ、変光周期が分かれば、そのまま絶対等級を求めることができるのです。



星を見ただけで測定できる実視等級と変光周期から知った絶対等級の二つのデータがあればセファイド変光星までの距離が分かります。



遠方の銀河の中で、セファイド型変光星を発見すれば、その銀河までの距離が分かります。このため、セファイド型変光星は宇宙の灯台とも呼ばれています。



Ia型超新星

超新星は重たい星が進化の末期に起こす大爆発ですが、超新星の中にはこれと異なるメカニズムで爆発するものがあります。



Ia型超新星は、白色矮星と恒星の連星系で、恒星のガスが白色矮星に降り積もりその圧力で核融合爆発する現象です。



ガスの質量が一定の臨界に達して爆発するので、どこの銀河に出現しようとピーク光度は常に一定になります。このため、Ia型超新星は標準光源として、遠方の銀河の距離の測定に利用されます。



ただし、狙った銀河でIa型超新星がタイミングよく出現することはまずありません。多くの銀河を常に観測し、Ia型超新星が出現したら、その銀河までの距離を測定するのです。



赤方偏移

プリズムに太陽の光を通すとスペクトルと呼ばれる虹のパターンが現れます。太陽の光は様々な波長の光が混ざっていますが、波長によって屈折率が異なるためプリズムを通すことによって、光を波長ごとにふるい分けができるのです。 太陽に限らず、他の天体からの光もプリズムでスペクトルを得ることができます。これを分光観測といいます。



分光観測のメリットはその星を作っている元素を知ることができることです。それぞれ元素は、決まった波長の光を吸収します。スペクトルをよく見ると、ところどころに黒い線(暗線)がありますが、それはその波長の光を吸収した元素があるからです。したがって、暗線の波長を調べることによって、その星に存在している元素が分かります。



実際に遠方の銀河を観測すると、暗線の位置が少し違っています。光は常に一定のスピードで進みますが、光源から出た光の速度は一定なので光源が遠ざかると光の波長は伸びていきます。この影響で暗線の波長が長くなったように観測されるのです。



赤い光ほど波長が長いので、波長が伸びるということは赤い色に近づくことになります。この現象を赤方偏移といいます。 暗線が元々の波長からどの程度ずれるかは、後退速度によって決まります。したがって、観測された暗線の波長と元々分かっている暗線の波長を比較すればその銀河の後退速度が分かります。後退速度と距離の関係は分かっているで、赤方偏移を観測することによって、その天体までの距離が分かるのです。

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参考文献・サイト

理科年表オフィシャルサイト

2012/08/01



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