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天文年鑑〈2011年版〉
天文年鑑編集委員会
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藤井旭の天文年鑑―スターウォッチング完全ガイド〈2011年版〉
藤井 旭
4416210183

バルカンを語る。

トップページ太陽系の目次バルカン

バルカンとは

水星は最も太陽に近い惑星である。
この水星よりさらに内側を、未知の惑星が公転していると強く信じられていた時期があった。
この未知の惑星の名称をバルカンという。



通常、天体は発見されてから名前が付く。
しかし、このケースでは発見される以前にバルカンと命名されている。
いかにバルカンの存在が確信されていたかが伺える。



今日、バルカンの存在は完全に否定されている
つまり、水星の内側に惑星クラスの天体は存在しないのである。




バルカンの捜索

バルカンはなぜ、信じられたのか

水星の近日点は少しずつ移動している。
この理由はニュートン力学では、まったく説明がつかない。
そのため、水星の内側を公転する未知の惑星が、水星の運動に影響を与えているという仮説が提示された。



この仮説にさらに信憑性を与えた人物がいた。
フランスの数学者ルベリエである。



以前、天王星の運動が力学の計算結果と一致しないことが問題となっていた。
ルベリエは、未知の惑星が天王星の外側に存在し、その重力で天王星の運動が撹乱されると洞察した。
そして、天王星の観測データから綿密な計算を繰り返し、未知の惑星の軌道を明らかにしたのだった。



その後の望遠鏡観測によって海王星が発見(1846年)されたのだが、その位置はルベリエの予測と大差はなかった。
ルベリエは、望遠鏡を使うことなく、ペン1本で未知の惑星の位置を予告したのである。
そのルベリエが、二匹目のドジョウを狙ってか、水星の内側の新惑星の仮説をプッシュした。



これを機に新惑星の探索ブームが巻き起こった。
発見レースに参入した人々のマインドは「あるかもしれない」から「あるに違いない」にヒートアップした。
未発見にも関わらず、バルカンという名称が与えられた。



「バルカン発見」の観測報告も繰り返し発表された。
しかし、それらは、すべて再現されることはなかった。
実在しないのだから、当然である。



誰もがバルカンを信じ、探し、誤った発見を繰り返した。
いくら探しても発見されないバルカンを求めて、人々は踊り、誤報に振り回された。



なぜ、バルカンは見つからないのか?
見つからないバルカンがなぜ、水星の軌道を狂わせるのか?



その謎は20世紀になってようやく解決した。
バルカンの謎の答えは、19世紀の研究者にとって知るはずのない真理であった。
アインシュタインの一般相対性理論である。




バルカンの存在はどのように、否定されたのか

一般相対性理論によると、物体は動くと重くなる。
つまり、物体は速度によって質量が変わるのだ。
「速く動けば、それだけ重くなる」と解釈すれば分かりやすい。



ケプラーの第二法則によると、惑星は近日点では速く、遠日点では遅く動く。
これに相対性理論の効果が現れるので、惑星は近日点では重く、遠日点では軽くなるのだ。
水星の軌道は、楕円の度合いが大きい(離心率が大きい)ので、近日点と遠日点での質量の差が他の惑星に比較して顕著になるのである。



近日点を通過するときの水星は重くなっている。
このため、水星は近日点のカーブを曲がり切れず、本来の公転軌道から外側に膨らんだ軌跡を描いて遠日点へと向かうことになる。
これが、公転周期の88日毎に繰り返されるので、水星の近日点は少しずつ移動していくのである。



相対性理論による予測と、水星の運動がズバリ一致したため、未知の惑星バルカンを仮定する必要はなくなった。
バルカンの存在は否定されたのである。



なお、惑星の形成理論においても、水星の内側に惑星サイズの天体が生じる可能性はあり得ないとされている。



発見レースに参入した人々は、なぜ実在しないバルカンを発見したと報告したのだろうか?
そして、なぜ誤報が繰り返されたのであろうか?



この故事は、実在しない火星の運河の観測を続け、何年もかかって運河の精密な地図を完成させたスキアパレリと通じるものがある。

人は、信じたものを目撃するのである。




バルカン捜索の副産物

バルカン捜索のすべてがムダになったのではない。
そこには思いもよらない発見もあった。
太陽活動周期はバルカン捜索の中から発見されたのである。



ハインリッヒ・シュワベ(1789-1875)もバルカン探しのレースに加わった一人である。



バルカンは内惑星であるので、太陽面を通過する機会があるはずだ。
ハインリッヒ・シュワベは、バルカンの太陽面通過のタイミングをキャッチしようと考えた。
そのため、ハインリッヒ・シュワベは、1826年から〜1843年までの17年間に渡り太陽の表面の記録を続けた。



その結果、ハインリッヒ・シュワベは、太陽黒点の数が約10年の周期で増減することを発見したのである。
[..さらに詳しく見る..]




バルカン族

バルカンと類似した軌道を持つ小惑星の群が存在するという仮説がある。
この小惑星の一群をバルカン族という。



水星の表面は多くのクレーターで覆われている。
このことは、かつて水星付近に大量の小天体が存在したことを表している。
バルカンの軌道は比較的安定しているので、かつての小天体が生き残っているかもしれない。



2009年4月現在、バルカン族は一つも発見されていない。




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